海外赴任

海外赴任中の日本での確定申告。申告書は誰が作成して、誰が提出するの?

海外赴任中でも日本で所得が発生していると、原則、確定申告が必要になります。
納税者自身は海外に滞在中の場合、誰が確定申告書を作成して、日本の税務署に提出するのでしょうか?

納税者自身が確定申告時期に一時帰国して自分自身で確定申告書を提出する方法もありますが、なかなかタイミングよく一時帰国もできないと思います。納税者自身が一時帰国して申告する方法以外で考えると、海外居住者の確定申告書の作成と提出方法のパターンは3通りあります。

【パターン1】 確定申告書の作成→税理士 提出→納税管理人(税理士)
【パターン2】 確定申告書の作成→納税者本人 提出→納税管理人(親族等)
【パターン3】 確定申告書の作成→税理士 提出→納税管理人(親族等)

それぞれのパターンの説明の前に、「納税管理人」の説明をしたいと思います。

「納税管理人」は誰に頼めるの?何をする人?

納税管理人とは、海外にいる納税者のかわりに日本での納税事務を引受けてくれる人のことを言います。居住地が日本であれば、誰でも納税管理人になることができます。

誰に納税事務を託すか決まったら、納税者は原則出国日までに税務署に「所得税の納税管理人の届出書」を提出します。

納税管理人の主な業務内容は次の4つです。

①確定申告書の提出
②納税
③還付金の受取り
④税務署から送付された書類の受取り

ここで注意していただきたいのは、”確定申告書の作成”は含まれていない点です。
申告書の作成自体はあくまで納税者本人もしくは税理士がおこないます。

では、確定申告書作成と提出方法の3パターンについてメリットデメリット含め、詳しく確認してみましょう。

【パターン1】
確定申告書の作成、提出ともに納税管理人である税理士がおこなう

納税管理人に税理士がなるメリットはずばり、確定申告書の作成から提出、納税(もしくは還付金の収受)まですべてお任せできる点です。

税理士が納税管理人であれば、e-Taxを利用し代理送信も可能なため、申告データをメールのやり取りで完結することも可能です。

納税者と税理士だけのやり取りで進めることができるため、親族等に迷惑をかけたくない、また、今まで確定申告書の作成経験がないので心配なのでプロにお願いしたい方にはオススメとなります。

一方でデメリットはやはり「費用」がかかる点です。
月額5千円~1万円の納税管理人報酬に加え、確定申告書の作成料金等も発生します。

【パターン2】
確定申告書の作成は納税者本人、提出は納税管理人である親族等がおこなう

日本にいる時からご自身で確定申告を行っており慣れている方は、このパターン2の方法で申告されている方が多い印象があります。出国後は利用中の会計ソフトや国税庁のHPから確定申告の用紙を出力して利用し、納税者本人が作成した申告書を納税管理人に税務署に直接持参もしくは郵送で提出してもらい、納付をお願いする形になります。

メリットとしては、税理士への依頼がないので「費用」がかからない点です。

デメリットとしては、2点考えられます。
①納税管理人に負担をかける。
②申告書の正確性に欠ける場合がある。

①についてですが、納税者が「税務署に確定申告書を提出して、納付を銀行でお願いするだけ。難しい内容ではない。」と作業的な負担は軽いはずだと思っていても、納税管理人が今まで確定申告になじみがない方であれば「税務署」とのやり取りが業務内容に入っていると、実際発生するかどうかにかかわらずそれだけで精神的負担になる、と聞きます。

②については、納税者本人が毎年確定申告書を作成していて慣れていたとしても、非居住者として確定申告ははじめてになります。限られた所得控除や源泉税の可否等非居住者の確定申告にはいくつかポイントがあり、それらを認識していない場合はせっかく申告したにも関わらず、後日、修正申告等の対応が必要になる可能性が生じます。

【パターン3】
確定申告書の作成は税理士がおこない、提出は納税管理人である親族等がおこなう

このパターン3はパターン1とパターン2の折衷案的なものになるかと思います。

第3者の税理士に依頼するのは確定申告書の作成のみ、のため「費用」はパターン1より抑えることができます。
また、確定申告書の作成を税理士が行うのでパターン2のデメリットとしてあげた「申告書の正確性」もカバーできます。

納税管理人の業務はご親族等の方にお願いする形になりますが、税理士が間に入ることによって納税管理人の漠然とした不安を和らげる効果があり、精神的な負担の軽減につながります。

おそらくパターン3の問題点は、納税管理人の依頼はない形で、非居住者の確定申告を引き受けてくれる税理士を見つけることができるか、という点でしょう。税理士の立場で考えると、おそらくパターン1のようにすべてをお願いしていただいた方が、電子申告が利用できたり、登場人物も少ないため作業を進めやすい状況になります。そのため、そもそも依頼を引き受けないか、確定申告だけ受ける場合は、通常の確定申告料金より高い値段設定をしている税理士が多いと思われます。

ここまで確定申告書作成と提出方法の3パターンについて確認してきましたが、

【パターン4】 確定申告書の作成→納税者本人 提出→納税者本人

が可能になる仕組みづくりが整いつつありますので、最後にご紹介したいと思います。

令和6(2024)年度の確定申告から非居住者でもe-Taxを利用して海外から確定申告ができるようになる?

令和5年(2023)度の確定申告までは、非居住者は海外でマイナンバーカードが使えないため、e-Taxが利用できず、自分自身で確定申告を完結することができませんでした。e-Taxでは、マイナンバーカードに組み込まれている電子証書を本人確認証として利用しますが、マイナンバー失効により電子証明書の確認ができないためe-Taxの利用が不可能だったからです。

しかし、2024年5月27日の改正マイナンバー法の施行により2024年5月27日から非居住者になっても、所定の手続きをすることでマイナンバーカードが継続利用できるようになりました。また、2015年10月5日以降に国外転出し、現在マイナンバーカードを持っていない非居住者の方も、在外公館等での所定の手続きを行うことでマイナンバーカードを保持することが可能となりました。

つまり、令和6(2024)年度以降の確定申告において、国外転出者向けマイナンバーカードを持っている方であれば、非居住者でもe-Taxを利用して、ご自身で確定申告を完結することができるようになる(パターン4)、と考えられます。

ただ1点心配なのは、電子証明証の認証方法です。現在、電子証明書の認証方法は2通りあります。
・ICカードライタの利用
・ICカードの読み取りに対応したスマートフォンの利用

スマートフォンを利用しての認証の場合、非居住者が利用しているスマートフォンが果たして対応できるのか?という点です。iPhoneであれば問題ないと思いますが、お住いの国によって使いやすい、買いやすい携帯の機種は異なると思いますので、その機種がマイナンバーカードの認証に対応できる機種なのか気になるところです。

非居住者の確定申告の実務的な対応については、今後の最新情報にご注意ください。

なお、マイナンバーカードが国外で継続利用できるようにするためには、出国日までに今お手元にあるマイナンバーカードに組み込まれている電子証明書をお住いの市区町村で国外転出者向けの電子証明書に切り替えてもらう手続きが必要です。
※くわしい手続方法は「マイナンバーカード総合サイト マイナンバーカードを国外で利用する」をご参照ください。