海外赴任中でも住宅ローン控除は受けられる?赴任パターン別に徹底解説

海外赴任の辞令を受け、住宅ローンの控除がどうなるか不安に思っている方もいるのではないでしょうか?
そのような方を対象に、海外赴任中に住宅ローン控除を受け続けられるのかどうか、ケース別に詳しく解説します。
まず今回のケーススタディの対象者は以下の方です。
平成28年4月1日以降の住宅の取得で出国年度より前に確定申告を終えていて ・会社の年末調整で住宅ローン控除を受けていた方 ・今年から年末調整で住宅ローン控除を受けられるはずだった方 |
では以上の前提を踏まえ、以下の3つのケースについて、住宅ローン控除の継続適用の可否、手続き、注意点を具体的に見ていきましょう。
- 【ケース1】単身赴任で家族は日本に残り、住居に住み続ける場合
- 【ケース2】家族で赴任し、日本の家は空き家の場合
- 【ケース3】家族で赴任し、日本の家は賃貸に出す場合
「海外赴任中の住宅ローン控除」のケース別解説
【ケース1】単身赴任(家族は日本の自宅に居住し続ける場合)
控除を受け続けられるかの可否
単身赴任でも家族が住んでいれば住宅ローン控除を受け続けることができます。
この場合の住宅ローン控除の受け方ですが、確定申告が必要になります。
住宅ローン控除を受ける場合、初年度以外は会社の年末調整で控除の手続きをしていた方が大半だと思います。出国年度においては、勤務先の会社で出国年度の給与収入について「出国時年末調整」を受けますが、その際の調整項目に住宅ローン控除は含まれないので、各自確定申告が必要となるからです。
では、出国年度の翌年以降はどうなるんだろう?と思った方もいるかもしれませんね。
出国年度の翌年からは単身赴任者は1年間をとおして非居住者となりますが、出国後も日本国内で国内収入(正確には国内源泉所得)があれば、住宅ローン控除を確定申告することで受けることができます。
ただし、給与収入のみの会社員の場合は、赴任後現地で受け取る給与は現地収入となり日本国内の収入がある、とはならないため、実質的には翌年以降は住宅ローン控除を受けることができない方が多いでしょう。
住宅ローン控除を受けるための必要な手続き(赴任前、帰国後)
- 赴任前: 出国前までに税務署に納税管理人の届け出をおこない、出国年度の原則翌年3月15日までに所得税の確定申告をおこなう
- 帰国後: 会社で年末調整を受ける。また税務署に納税管理人の解任の届を提出する
出国年度については、確定申告が必要になります。
非居住者の確定申告となりますので出国前までに、自宅の住所を管轄している税務署に「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」を提出して、納税管理人を届け出ます。出国時年末調整を行ったあとの所得に対する確定申告のため、給与収入以外の収入がない場合は、還付申告となる方が多いでしょう。
なお、帰国後ですが、帰国した年から会社で年末調整を受けることで適用可能となります。
非居住者の確定申告の具体的な方法については、こちらのコラムをご参照ください。
「海外赴任中の日本での確定申告。申告書は誰が作成して、誰が提出するの?」
注意点
- 平成28年3月31日以前に住宅を取得した場合、たとえ単身赴任であっても、海外赴任中は住宅ローン控除の適用を受けることができませんでした。税制改正により、「生計を一にする」家族が日本に残り、引き続きその家に住んでいることを条件として適用できるようになりました。
【ケース2】家族全員で海外赴任
(日本の住宅が空き家になる場合)
控除を受け続けられるかの可否
家族全員で海外赴任する場合、海外赴任期間中は住宅ローン控除を受けることはできません。
これは、住宅ローン控除の要件である「居住」を満たさなくなるためです 。ただし海外赴任から帰国し、再びその家に住むことになった場合、住宅ローン控除の期間が残っていれば、残りの期間について控除を受けることができます 。(住宅ローン控除の再適用といいます。)控除を受けられなかった期間があっても、期間が延長されることはありません。あくまで、最初に定められた控除期間の残りの年数についてのみ、再適用が可能となる点、注意が必要です。
住宅ローン控除を受けるための必要な手続き(赴任前、帰国後)
- 赴任前 出国前に、住宅の所在地を管轄する税務署に以下の書類を提出します。
①「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」 ②「年末調整のための住宅借入金等特別控除証明書」及び「給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書」の交付を税務署から受けている場合は、その未使用分
- 帰国後 再び居住し始めた年の確定申告で、以下の書類を添付し申告します。
①「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書(再び居住の用に供した方用)」 ②金融機関等から交付をうけた「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」
家族で海外赴任し日本の家を空き家にする場合で、帰国後に住宅ローンの再適用を希望する場合出国前に税務署へ届け出が必要です。
「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」に必要事項を記入し、未使用の住宅ローン控除関係の書類とともに提出します。
これにより、海外赴任期間中は住宅ローン控除の適用が中断されることになります。
帰国後、再入居した年の確定申告で住宅ローン控除の再適用を申請することで、ローン控除が再開されます。
注意点
- 海外赴任前に税務署での手続きを忘れると、帰国後に住宅ローン控除の再適用が認められない場合があります。必ず出国前に手続きを行いましょう。
- 金融機関に海外赴任で家が空き家になることを連絡しましょう。無連絡で長期空き家の状態になると、住宅ローンの契約違反をとられてしまう可能性もないとはいえないため、注意が必要です。
【ケース3】家族全員で海外赴任
(日本の自宅を賃貸に出している場合)
控除を受け続けられるかの可否
家族全員で海外赴任し、日本の家を賃貸に出した場合も、原則として海外赴任期間中は住宅ローン控除を受けることはできません。
理由としては、賃貸に出している間は、自身や家族が居住しているという要件を満たさないためです。日本の家を賃貸に出した場合、他人に住んでもらうことで家賃収入を得るという目的を持つことになります。住宅ローン控除は、あくまで自己居住用の住宅に対して適用される制度であるため、賃貸に出している期間中は控除を受けることができません。
帰国後の再適用について
海外赴任から帰国し、再びその家に住むことになった場合、住宅ローン控除の期間が残っていれば、残りの期間について控除を再適用することができます 。ただし、空き家にしていた場合とは異なり、賃貸に出していた場合は、再入居した年の翌年から控除が再開されます 。これは、賃貸期間中に得ていた家賃収入などを考慮するためと考えられます。
住宅ローン控除を受けるための必要な手続き(赴任前、帰国後)
- 赴任前 出国前に、住宅の所在地を管轄する税務署に以下の書類を提出します。
①「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」 ②「年末調整のための住宅借入金等特別控除証明書」及び「給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書」の交付を税務署から受けている場合は、その未使用分 ③「所得税・消費税の納税管理人の選任届出書」空き家の場合と同様に、「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」を税務署に提出します。未使用分の証明書も提出します(該当する場合) - 帰国後 再居住の翌年の確定申告で、以下の①②の書類を申告書に添付します。
①「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書(再び居住の用に供した方用)」 ②金融機関等から交付をうけた「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」 ③「所得税・消費税の納税管理人の解任届出書」※帰国後すぐに提出
家族で海外赴任し日本の家を賃貸に出す場合で、帰国後に住宅ローンの再適用を希望する場合は出国前に税務署へ届け出が必要です。
必要な手続きは、日本の家を空き家にする場合とほぼ同じですが、大きく異なる点は帰国後の住宅ローン控除の再適用の確定申告のタイミングです。再入居した年の翌年度、確定申告が必要となります。
2024年1月~8月分の家賃収入+10月~12月給与収入→2025年3月15日期限確定申告
2025年1月~12月給与収入→2026年3月15日期限確定申告(再適用のため)
賃貸収入に対して確定申告が必要になるため、納税管理人の届出が必要です。帰国後は解任届を提出しましょう。
注意点
- 住宅ローンが残っている家を賃貸に出す場合は、事前に金融機関に相談し、許可を得る必要があります。手続きの流れとしては、金融機関からの許可を得たあとに、必要な税務関係の手続きをおこないます。海外赴任前に税務署での手続きを忘れると、帰国後に住宅ローン控除の再適用が認められない場合がありますので、必ず出国前に手続きを行いましょう。
- 賃貸契約の種類(普通借家契約、定期借家契約など)によっては、帰国時にスムーズに再入居できない可能性もあるため、注意が必要です 。
- 賃貸収入がある場合は、国内収入が発生していることになるため、原則、確定申告が必要です。非居住者の確定申告となるため、今まで確定申告になじみがない方は税理士への依頼も検討しましょう。住宅ローンが残っている家を賃貸に出すケースが一番手間が多いため、余裕をもって取り組む必要があります。
まとめ
海外赴任中の住宅ローン控除は、単身赴任で家族が残る場合は継続できる可能性がありますが、家族帯同の場合は原則として中断されます。
家族帯同で赴任し、帰国後に再び家に住む場合は、空き家にするか賃貸に出すかによって、ローン控除再開のタイミングが異なります。
いずれの場合も、海外赴任前後の手続きをきちんと行うことが、控除を再適用するための重要なポイントです。賃貸に出す場合は、金融機関への確認や賃貸契約の種類、非居住者の税務上の取り扱いなど、特に注意すべき点が多いことを覚えておきましょう。
ご自身の状況に合わせて適切な手続きを行い、住宅ローン控除を賢く活用してくださいね。
海外赴任時の住宅ローン控除の取り扱いまとめ表
(平成28年4月1日以降に住宅取得)
ケース | 赴任時控除継続の可否 | 帰国後の 再適用 |
手続き | 注意点 |
単身赴任 |
可 |
帰国年の年末調整 |
赴任前手続き不要、 赴任年度の確定申告 |
生計を一にする親族の居住が条件 |
家族で赴任 |
不可 | 再入居した年から | 赴任前に税務署へ届出、 帰国後に確定申告 |
赴任前の手続き必須、金融機関への連絡、空き家管理 |
家族で赴任 |
不可 | 再入居した年の 翌年から |
赴任前に税務署へ届出、 帰国後の翌年に確定申告 |
金融機関への相談と許可、賃貸契約の種類、非居住者の税務 |